本プロジェクトは、日本の先進的なてんかん外科治療を推進してきた都立神経病院のて んかん外科グループと関連する臨床各科(神経内科、神経小児科、神経照射線科、精神神経科)、そしてプロジェクトリーダー(神経研)が1995年6月から行ってきた臨床例のカンファレンスを母体として発展して出来たものである。本プロジェクトは、脳外科医と連携しながら、焦点切除した脳組織にどのような器質的、機能的な変化があるのか、ということを掘り下げ、新しい診断基準の策定により(図1)、evidence-based medicine(EBM、エヴィデンスに根ざした医療)の推進に寄与するための正にエヴィデンスを試行錯誤の中で見いだしてゆく命題を抱えている。
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| 図1 |
難治性てんかんに対する脳外科手術はきわめて高度な医療であり、本邦では図2に示す専門病院が行っており、われわれのもとには多くの施設から病理診断に関するコンサルテーション、共同研究の依頼がある。本プロジェクトでは、これまでの研究活動をより具体的な事業へと発展、強化させる意味で、平成19年度から本邦では初めての発想にて「てんかんパソロジーセンター」を設置し、てんかん外科治療によるてんかん原性脳病変の診断に関する専門的な情報発信をシステム化しているところである。
本センター設置の目的は、神経研およびてんかんプロジェクトの研究活動による成果を活用することにより、てんかんを引き起こす神経疾患の病態の解明、診断、治療に関わる医学研究の推進に役立てることであり、てんかん研究、てんかん診療に関わる医師、医療関係者、研究者を対象とし、てんかんを引き起こす神経疾患・脳病変の病態の解明に関わる神経病理学的検索と情報の提供、および共同研究を推進する事業を行っているところである。詳細については、設置要綱を参照願いたい。
問い合わせ先 事務局 新井信隆
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| 図2 |
てんかんの患者人口は100人にひとり、全国で約100万人、東京都で約10万人と言われている。そのうち約70%の方は薬物治療が功を奏し良好に発作が抑制されるが、残り30%は、薬物治療に抵抗性であり難治性てんかんと言われる(図3)。そして難治性てんかんに苦しむ方の約10%、すくなく見積もって約5%、すなわち全国で約5万人が脳外科治療の適応ではないかと一般的に考えられている。本プロジェクトはその5万人に光を与える医療と連動している。
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| 図3 |
本プロジェクトは、以下の8テーマの研究に取り組んでいる。
以下にプロジェクト研究の主な点について概説する。
本プロジェクトの協力班員の一人、都立神経病院脳外科清水弘之部長の進める新しい脳外科治療法の開発が臨床的な重要な課題である。てんかん外科治療法には様々な術式があるが、神経病院で推進してきた最も先進的なものが軟膜下皮質多切術(multiple subpial transection、MST)である(図4)。 このMSTというのは、大脳皮質に垂直に5ミリの深さのスリットを数ミリ間隔で敷設する方法であり、これにより、大脳皮質の縦方向の機能的ユニットを温存する一方で、水平方向に同期する発作波を遮断するものである。この方法は大脳皮質言語野や運動野など後遺症を残すため切除できない焦点部に対する治療法として画期的である。本プロジェクトでは、MSTを側頭葉てんかんの海馬の焦点部、特に優位半球の海馬に対して施すことにより、これまで記憶障害の後遺症を回避するために治療を受けられなかったケースに福音を与えようとするものである。16年度からすでに多くの海馬MSTを行い、良好な成績を得ている。そして、海馬MSTを如何に有効なものにするかは、海馬の線維に対してどのような方向でMSTを施すかということも重要であろう。この点については石塚研究員が海馬体の神経回路を明らかにする研究を遂行しており、MSTに理論的、戦略的な根拠を与えるデータを臨床にフィードバックできる。
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| 図4 |
難治性てんかんの外科治療により切除されたてんかん焦点部にどのような病変があるのか、その診断が意外と難しい。それは診断基準がないことに起因する。しかし、一見なにも異常がないように思われる焦点組織になにが存在しているのか、それを明らかにすることが非常に重要になってくる。なぜならば、そのような焦点部は形態画像、機能画像で描出されないことがほとんどであるので、それだけで外科手術の適応外とされてしまうことが多い。つまり、画像で病変がないのであれば手術はしない、ということになってしまい適切な医療が受けられないケースも多い。一方、神経病院では画像で描出される病変がなくとも、機能的に発作波を出しているのであれば、術中皮質脳波検査などを駆使して発作波が出なくなるまでMSTなどで処置を施すのであるが、そのような焦点部にどのような器質的、機能的変化が存在しているのか、それを明らかにし、評価基準を策定することが筆者の課題である。この点に関してこれまでに予備的に検討してきた結果、微小形成不全(microdysgenesis)というカテゴリーの微細な脳形成異常の存在が明らかとなってきており(図5)、大脳白質における異所性神経細胞や血管異常に代表されるひとつの表現型を発表してきた。昨年リーダーは、日本てんかん外科学会において日本ではじめて、「Microdysgenesisの病理」と題したシンポジウムの企画を依頼されたが、これはまさにてんかん外科治療の現場で、脳の微細な形成不全の存在が注目されてきたからに他ならない。この微小形成不全に関して、解明しなければならない課題は山積しているが、てんかん外科治療の推進にはこの点についてのエヴィデンスを生み出してゆくことが強く望まれている。
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| 図5 |
また、てんかん原性脳腫瘍の診断と治療に関する問題も多く残されている。この点については小森隆司研究員がリーダーとなって全国的な検証プロジェクトを立ち上げているところであり、病院間で共通の新しい診断基準を共有することにより、適切な医療が受けられることが期待されるところである。
新井信隆(リーダー)、 小森隆司、 江口弘美
石塚典生、 岡戸晴生、 山形要人
清水弘之(脳神経外科)、 清水俊夫(神経内科)、 柳下章(神経放射線)
| 第1条 | 本組織は「てんかんパソロジーセンター(Epilepsy Pathology Center)」と称する。 |
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| 第2条 | てんかんパソロジーセンター(以下、センター)は、てんかんの発症と難治化のメカニズムの解明に繋がる脳機能解明のため、様々な脳病変の病理診断および病態に関する医学的研究の推進を図ると共に、ヒト脳疾患の診断レベルの向上、治療選択の適正化に資する活動を行うことにより、てんかん医療に貢献することを目的とする。 |
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| 第3条 | センターは、てんかんにかかわる医療従事者、てんかんをはじめとする様々な脳神経系疾患の研究者およびそれらの者が所属する施設を連携先(以下、連携先)とし、てんかん病理の研究を推進するためのネットワークを適宜、構築することとする。 |
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| 第4条 | センターは、連携先における必要な手続きを踏まえて手術、生検あるいは剖検等によって採取された病理組織学的検体(以下、病理検体)から作成した標本・デジタル情報を解析・研究の対象とし、必要に応じ、病歴、画像検査所見、それらのデジタル情報等を参考資料として入手する。 |
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| 第5条 | 症例の管理者は病理検体等の提供者である連携先であり、センターとの連携で得られた知見などを根拠にした診断、治療法の選択および遂行に関する最終決定は連携先が責任を負う。 |
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| 第6条 | センターが保管する病理検体、資料、標本などについては、センターでの入手時に匿名化で登録を行い、年齢、性別、臨床診断、病歴以外の個人が特定される情報は入手をせず、これら一切は施錠のできる保管庫に厳重に保管する。また、センターは病理検体、資料、研究によって得られた知見等を、提供者の許可あるいは合意なく、連携ネットワーク以外の第3者に対し提供あるいは公表しない。 |
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| 第7条 | センターはてんかんプロジェクトの研究計画に基づき、研究所内の研究倫理委員会で承認された研究活動を行うこととし、医療法に基づく医療行為、その他いかなる営利目的の活動は行わない。 |
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| 第8条 | 診断に関するコンサルテーション、あるいは共同研究の遂行に際しては、費用の有無、病理検体の授受方法、得られた知見等の情報管理などについては、連携先と事前に協議し、相互の協力関係を損なわないよう努める。 |
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| 第9条 | センターの事務局は財団法人東京都医学研究機構・東京都神経科学総合研究所・神経発達・再生研究分野・臨床神経病理研究部門に置き、プロジェクト研究「難治性てんかんの新しい治療法の開発」(以下、てんかんプロジェクト)の班員が中心となり、内外の医療従事者および研究者と連携しながら運営する。 |
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平成19年 4月 1日